≪S☆J番外編 〜地獄の休暇と6つの塔〜≫




第1章 

〜悪の組織が動き出す5ヶ月ほど前の話〜

『ねえねえ、次あっちの店いこうよー!』

『うーんと・・・メシはどこで食う?』

『でさぁー、このケータイ3D会話が壊れちゃったみたいでー・・・・・・』

(ワイワイ、ガヤガヤ)

ここはノーザストシティ。
PawaLandよりはるか北部に位置する大都市である。
「北部」といっても温帯に属するため寒くないし、むしろ1年中初夏の気候という珍しい地域なのだ。
大都市なのでただでさえ混んでいるのは当然。
最近、この都心部に「ノーザンタワーヒルズ」というショッピングモールができたために
この日は人だらけである。
このショッピングモールは本館とタワーA〜Fの7つの建物に分かれており、
本館は2階建てで主にインフォメーションなどがある。
各塔は12階建てで、本館を囲むように正六角形型にそびえ立っている。
塔の階数には呼び方があり、例えばタワーAの2階なら「A−2」、
タワーDの10階なら「D−10」といった感じだ。

そんな都心部から少し離れた所にある喫茶店。
ここからは海が見え、波音が聞こえてくる。

「あーもう・・・こういう空気にはどうも慣れねーよ。 よく平気だな、アフロ。」

都心部から多少離れてはいるものの、休日であるこの日は特に人が多い。
店内にはテーブル席とカウンター席がいくつもあるのだが、それもすでに埋まっている。
唯一すいている所といえば、店の外にパラソルとキャンプ用のチェアーで設けられた眺めのいい場所。
ただ、潮風が強めで意外と寒いので、あまり人がいないというわけだ。

店内からは楽しそうな話し声が聞こえてくる。
そんな店外で、サングラスの男は喫茶店の外で新聞を広げながらぶつくさグチっていた。

「あーウルサイ。 あ゙ーーーウルサイ。
 あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ウルサイったらありゃしねえ!!」

「まあまあMAXさん。いいじゃないですか。 せっかくアロハーさんが休暇をくださったんですから。
(それにアンタも十分ウルサイよ。)」

サングラスの男、MAXの向かいでコーヒーをすすっていたヘアバンドの青年が言う。
彼らは特殊迎撃部隊「ジャスティス」の一員の中でも上位の、本部直属の隊員である。
アロハーという人物に休暇をもらい、このシティまで遊びに来ているらしい。

MAX「ううむ・・・それはそうなんだけど。 あの人から休みをくれるなんておかしいと思わないか?
    しかも何で場所まで指定されてんだよ・・・どう考えても裏があるとしか思えん。」

MAXが首を捻らせる。

アフロ「ちょっとソレはうたぐり過ぎでは?(・・・同感だけど。)」

一応反論してみたものの、MAXはアゴに手をかけて悩み始めた。

MAX「う〜ん、でもなあ〜〜〜〜〜・・・・・・(ググギィィィ・・・)」

MAXは体をエビのように反らし始めた。

アフロ「・・・まあ、せっかく来たんですからいいじゃないですか。 
こんなとこ指令でも滅多に来れませんよ。」

そのままイスごとブリッジしている彼に、アフロが苦笑しながら言う。

MAX「う〜ん・・・そうだよな。 せっかくだし、楽しむとするか!」

MAXはそう言うとジャンプで立ち上がり、サングラスを外した。

アフロ(最近この人のアロハーさん度が高くなってるような・・・。)

と、思い出したようにMAXが口を開いた。

MAX「ところで、ヨウはどこ行った?」

今度はポケットからクシと手鏡を取り出して髪の毛をセットしている。

アフロ「ああ、あの人なら用事があるとか言って駅の方に行きましたけど。」

MAX「ふーん。 まあいいか。アイツのことだし。 俺達は俺達で楽しむとするか♪」

MAXはそう言って席を立つと、足取り軽く建物の本館の方へスキップして行った。
すでに周りからヘンな目で見られているのは言うまでもない。

アフロ「イヤちょっと待って下さいよ、コーヒー代は?! オゴってくれるんじゃないんですか!!?
    ・・・ってもう居なくなってるし。
    まったくあの人、『慣れない』とか言っときながらかなりノッちゃってるし・・・。」

そんなことを言いつつもアフロは伝票をレジに持って行った。

アフロ「あ、領収書を『アロハー』に送っといて下さい。」





【タワーC−4】

MAX「らんらんら〜ん♪ ら〜んらん♪」

相変わらずスキップで本館内を回っているMAX。

MAX「(なんかさっきから周りの人たちみんな俺の方見てるよな・・・。
そんなに俺がカッコイイのか・・・フッ。)」

変人だと思われているコトにすら気付かない勢いである。
いつの間にか手のフリがついているところなど相当キモい。
独りで「モテる男はつらいなあ」などとほざきながらスキップを続けていた。

MAX「らんらんら・・・・・・お?」

急に立ち止まったMAXの目に留まったのは、特殊機械パーツ店。
この時代なら、そんなものはショッピングモールにあって当然。
(平和主義なので、流石に武器屋までは無い。)
とは言っても機械パーツなんて買いに来る人は限られているので、
この店はあまり混んではいないようである。
彼はショウウインドウに近づき、飾られているパーツを見つめた。

MAX(このジェット噴射機・・・バイクにつけたらカッコイイかな・・・。)

おもむろにノートとペンを取り出し、考え始めた。
何かメモを取っている。

MAX(ううむ・・・この重さならいけそうだ! 飛ぶバイクか・・・カッコイイ〜!!
     お? あっちにあるのは・・・・・・)

何か他にも良さそうなものを見つけたのか、MAXは店に入っていった。
しばらく彼は店内をウロウロしていた。
「お、コレはすごい」とか「イカスぜー!」とかしばしば大声で独り言を連発するので、
店は外から注目の的である。
しばらくすると、彼はいくつか重そうにパーツをかかえながらレジに向かった。

(ドサッ!!)

MAXがレジの上にパーツの山を置く。
流石に手に持てるサイズのものばかりではあるが、相当な量だ。

店員「え・・・あ・・・これ・・・全部ですか?」

今までこれ程の量を購入した客はいないとばかりにレジの店員は動揺してしまった。

MAX「あ、まだです。これとそれとあれと手前のと
そのちょっと右上にある・・・(中略)・・・のヤツとそこの棚の上のヤツくださ〜い。」

レジ係としてはただでさえ値段チェックが大変だというのに注文をやめないMAX。

店員「が・・・ぎ・・・ぐ・・・げ・・・んぬぉ!??」

そんな異常な客に、店員はすっかり硬直してしまった。
しかし気を取り直したのか、すぐにMAXの注文を確認し始めた。

店員「りょ・・・了解しました。 それにしても随分たくさん買われますね・・・。
何か機械関係のお仕事でも?」

パーツをレジに通しながら店員が問いかける。

MAX「いや、そういうワケでもないんですけどね。 ちょっとバイク改造とか好きで。」

店員「へえ〜・・・そうなんですか。」

良さそうなパーツがあったらまだ買うつもりなのか、
店員が値段を確かめている間にMAXは店内をもう一度見回している。
レジの店員は心の中で「これ以上はやめてくれ・・・これ以上は・・・」と必死に叫んでいた。
MAXが持ってこれなかったような大きなパーツは直接レジに通すことができないので、
あらかじめ用意してあったバーコード表で確認していた。
しかし、どういう改造をしたらこんなにパーツが要るのか不思議である。

店員「あ、終わりました。 しめて・・・127万ランド?! 本当にこんなに払えるんですか!!?」

「ランド」とはこの世界のお金の単位で、100万ランドというと家が1軒買える程の金額である。
つまり、127万ランドとは相当高い金額なのである。

――――――しかし。

MAX「え? ・・・割と安いな。」

店員「・・・ええ゙ッ?!」

レジ係としては意外な答えにビックリしていた。
MAXの容姿どう見ても金持ちという感じでは無かったからだ。
それでも127万ランドを安いと言えるだけの金額は持っているらしい。
レジ係としてはそれで解決するので安心していた。

――――――しかし。

MAX「・・・でも持ってねえ。」

店員「え゙え゙え゙ッ?! 安いんじゃないの!!?」

レジ係としてはただでさえレジに通すのに苦労したというのに払えなくて返品というのは非常に困る。

MAX「あ、大丈夫。 ちゃんと払えますから。」

店員「えっ!? なんですか?」

レジ係としてはこのピンチを乗り切る打開策を早く知りたくて緊張している。

MAX「えーと、領収書と送り先を『アロハー』宛てにお願いしま〜す。」

店員「あ、かしこまりましたー。」

レジ係としては非常に安心した。