第8章





ゆう、ヨウ、ガンク

3人は1軍のレギュラーとして活躍していたがちょっとした事がきっかけでレギュラー落ちし
その事でやけを起こしたり悪の道に走ったりして結局今の4軍に留まっているのだが
決して技術的に1軍レギュラー達よりも劣っている訳ではない。
むしろ1軍レギュラー郡よりも優れた才能を持っているものもいる。
だが彼らには何かが欠けていた。
その何かはプレーヤーにとって1番大事な物だったりする。


指導者は多くの優れたプレーヤー達を振るいにかけ
その中から優秀な選手をかき集め
強いチームを創っていく事が出来る。


しかしアロハーは
その振るいに落とされた選手達に
自分に欠けている物、
それが何なのか、
その事に気づかせ、それを克服させてあげる事こそ
真の指導者ではないのかと考えている。


はなもそう言ったアロハーの指導方針に共感する部分が多く
だからこそ4軍のコーチを引き受けている訳でもある。

普段はおだやかでにこやかなはなのだが
時に彼は修羅と化す










彼のあだ名は「修羅のはな」












グラウンドにやって来たはなはバットを持ってバッターボックスに入った。
そして後ろで構えているしんへいに
「補給はもういいよ、そこで私のバッティングを良く見ておきなさい」と言い
マウンドのアフロに内角高めボール一つ内に外したボール球を投げるように指示した。


アフロが投げた球は、はなが指示したそこえドンピチャリで入って来た。


「絶妙なコントロールだな」


はなはその球を綺麗にジャストミートした。
3塁ベンチに向けて痛烈なライナーが走った。
ベンチでジャンをしていたゆうの椅子にそれがヒットした。


「ひえ〜!」思わずゆうが声を出した。


「しんへい、今のコースどんなにジャストミートしても今のようにファールにしかならない、覚えておきなさい」
「へい」としんへいが答えると、アフロにもう1球今のコースに投げる様に指示した。


「やべ」ゆうが身の危険を感じたのかグラブを手に取った。
3塁ベンチに向けてまたライナーが走った。今度は明らかにゆうの体目掛けて飛んでくる。
後ろ目でゆうはグラブを差し出しその打球をキャッチした。



「ゆう! 相変わらず器用だな そんな姿勢でキャッチするとは」

「じゃあ、これはどうかな?」



そう言うとはなは、アフロにさっきよりもボール一つ内側の内角高めのストライクボールを要求し
それを3塁ベース上に打ち返した。


ゆうは無意識に打球に反応し、気がついたら3塁ベース上にダイビングし打球をキャッチしていた。


「ゆう! お前のポジションはそこじゃないよね! お前のポジションはここだ!」


今度はショートの位置にライナーが飛んだ。
打球をキャッチしたゆうは、まんまとグラウンド内の自分のポジションに引きずり出された。
ゆうは打球を取るたびに1塁に送球しようと無意識に体が動くのだがそこには誰もいない。



「面白くねぇ〜な〜」



そう言うとゆうはヨウにファーストに入るように言った。
「仕方ないな〜」と言いながらもヨウはファーストに入る。


アフロははなが指示するコースへ的確にボールを投げる。
それを芸術的バッティングで打ち返すはな。
そのバッティングをしんへいは目を光らせて観察していた。


「この人のバッティングすげ〜、全く無駄がない・・・」


「ゆう! これはどうだ!」次第にはなの打球は威力を増しきわどい所に飛んでくる。

「おりゃ〜!」掛け声と共に打球に突っ込むゆう。

次第にゆうも熱くなっていき「かかってこいや〜!」とはなを挑発する。
はなも次第に本性を現してくる。
そう、修羅のはなと言われる由縁はここにある。










おらおらおら! ゆう! もっと気合入れて突っ込まんかい〜!






なんじゃい! はな! その程度の打球しか打てんのかい!





てめぇ〜! 



俺に口答えするなんざ1000年は早いんだよ!


 これでどうじゃい!

凄まじいノックと罵声(ばせい)の応酬が始まった。



その様子を後ろで見ていたしんへいにその男達の熱き鼓動が伝わらない訳がない。


はながアフロの球を打つ度に
うおりゃ〜〜〜〜! 
でや〜〜〜〜〜!
」と
訳の分からない掛け声というのか、雄叫びをしんへいも放っていた。





しんへいは今までに味わった事のない、何かがこみ上げてきていた。
いつも一人でタイマンを張ってきた彼が
今、「チーム」という形で一つの事を皆で共有して楽しむという事の素晴らしさを
体全身で感じている。


ベンチに一人取り残されたガンクももう我慢の限界。
グラブを片手に自分のポジションであるセカンドに向かって飛び出した。




来たなガンク! お前も成敗してくれる!




はなは6、4、3、と叫びショートに向けて打球を放った。
ゆうがキャッチするとすかさずセカンドのガンクへ
ガンクは2塁ベースに走りこむと華麗にジャンピンスローで1塁へ





決まったぜ! 観たかこの華麗なジョンピンスロー!









甘いぞ! ガンク! これはどうだ〜!


今度は4、6、3と次第に内野手の連携プレー中心のノックに移っていった。

そしてはなの罵声がこだまする。


おめぇ〜ら、レギューラー外されたぐらいで、

すねてんじゃねぇ〜よ!



試合で観客に自分のプレーを観てもらわないと

野球を楽しめなねぇ〜のかよ!



野球ってのは仲間と一緒にプレイする、

それが一番楽しいんじゃ〜ねぇ〜かよ!

それで十分じゃねぇ〜か!




その仲間の中心にいたアフロもまた熱いものを全身で感じていた。



野球ってこんなに楽しいものだったのか・・・



みなの心はいま正に野球のとりこになっていた。









しかし何故かヨウだけはいまいち燃えていなかった。

それは
サードからの送球が返ってこないからである。


ヨウはショートのゆう
セカンドのガンク
そして
サードのZETからの
返球をずっとファーストで受けてきた。


今ポッカリあいたサードの空間が
ヨウにはたまらなく
寂しく感じていた。