第14章〜甲子園編4〜





満員のスタンドは1回の表のパワラン学園の度肝を抜くプレイで
割れんばかりの歓声が沸き起こっていた。


その中で守備に散っていく農業大縁高校のナイン達の足取りは重たかった。
パワラン学園は後攻でありながらも、その守備において農業大縁高校のナインに
痛烈な先制パンチを食らわした。


戦いは先手必勝、猛将はな監督の攻めは初回表から更に裏の攻撃へと続く。









農業大縁高校の先発ピッチャーはキャプテンの窪田でキャッチャーは石垣。
3回戦まではエースの真弓が先発で、リリーフで窪田がマウンドに上がるといったパターンだったが、
この試合ではエースを温存し可能な限り窪田で引っ張る作戦にでた。
ピッチングの内容は変則投法を武器とする真弓の方が明らかに上で
窪田が通用しない時には直ぐに真弓がマウンドに上がれるようにベンチ横で投げ込みをやっていた。










パワラン学園1回裏の攻撃


先頭打者トンマ(センター)










トンマは窪田の初球を捕らえ1塁に出塁すると
自慢の足ですかさず2塁を落とす。


2番ゆうが絶妙なセーフティーバントでトンマを3塁に送ると共に自分も1塁に出塁。
ゆうも盗塁で2塁を盗みランナー2塁、3塁とする。









ノーアウト2、3塁









パワラン学園の1、2番の足に引っかき回された窪田。
先のアフロの剛速球を見ているだけに、
この試合における1点の重みを誰よりも理解していた彼の顔には既に焦りが出ていた。


迎えるバッターは3番ZET


犠牲フライでも1点、ワンヒットで2点
しかもその後には4、5番が構えている。


農業大縁のベンチは動かざるおえなかった。
ピッチャー交代が告げられ窪田は1アウトも取ることなく後輩の真弓にマウンドを託した。










窪田「すまん、真弓・・・」


真弓「気にしない♪ 気にしない♪」










窪田とは対照的な笑顔で答える真弓だったが顔は引きつっていた。
無理もないだろうこのピンチの場面でしかも初回リリーフ、
1年の真弓にはまだ心の準備が出来ていなかった。
窪田はそのまま本来のポジションであるセカンドに入り後ろから真弓に激を飛ばす。



窪田「真弓〜! 頼んだぞ〜!」



実況「ついに出ました〜!今大会話題の投手、真弓君。彼は1回戦から3回戦まで
21イニング無失点を現在続けています
解説のやまさん、初回から真弓君が出てきましたよ」


やま「そうですね〜 引っ張り出されたって所ですかね
しかし彼の変則投法は今大会自責点0と今だ打ち崩されていないのですが、
何分腕に掛かる負担が大きいようで、7回以降はリリーフで窪田君が投げて来たわけです
ですからこのロングリリーフが後半にどういった影響を与えるか、ちょっと心配ですね」






実況「さぁ〜! その真弓君、今独特のフォームから第1球を投げた〜!」

ストラィ〜ク!





ZET「これがアーチエッジSって奴か〜 ビデオで見るよりも変化が大きく感じるな」






第2球

キャッチャー石垣が要求した球はインコースに外したボール球、しかしその球が甘く入ってきた。











石垣「しまった!












ZETはその甘く入ったストレートを見逃す事無く豪快に振りぬく。
カキ〜ンという金属音と共に観客席から「うお〜〜!」という歓声が上がった。
打球はレフトスタンド目掛けてグングン伸びていく。
歓声が「あああ〜〜〜〜」という何とも締りの無いものと変わっていった。


レフト線の審判からファールが告げられた。


キャッチャー石垣が慌ててマウンドに駆け寄る。
真弓はボールが打ち込まれたレフトスタンドをじっと見ていた。
「真弓大丈夫か?」石垣の呼びかけにハッと真弓が振り返った。


石垣「1塁側の応援席を見てみろ」
石垣に言われ応援席に目をやった真弓の目に、
学校の田んぼでとれた大きな大根を両手に一生懸命応援している大応援団が映った。


その中に練習中いつも肥え溜めに落ちていた落多君の姿を見つけた真弓は、
「あ、落多君だ! 今日は彼も落ちる心配は無いですよね」
と石垣に笑顔で応えた。真弓のその言葉に思わず「プッ」と石垣が噴出した。









真弓「いや〜それにしても凄い打球でしたね〜 今ので目が覚めましたよ♪ もう大丈夫!」








その返事を聞いて安心した石垣は真弓の肩をポンポンと叩いて戻っていった。
石垣はチーム1冷静な男で彼の存在が有ってこそ1年の真弓でも
今日まで伸び伸びとピッチングをやって来れた。
その石垣のフォローですっかり平常心を取り戻した真弓は自慢の魔球でZETを三振に撃ち取った。




しかしワンアウトランナー2,3塁

ピンチはまだ続く