第11章





新聞屋の朝は早い

早朝4時頃から販売店に配達員が集まってくる。
そこでまず、その日の折込チラシを閉じ
自分の配達分をまとめ
それを各自が配達に使うバイクや自転車の荷台にくくり付け
4時半ぐらいから皆一斉に販売店を飛び出していく。


大学生などが学費を稼ぐ為に
アルバイトでやっていたりするケースが多く、
中にはZETのような高校生もいたりもする。


ZETは皆と一緒に販売店から配達に出て行った。
10月ともなると日が上る前の早朝は、
かなり冷え込んで吐く息も白く濁る。











ZETはチャリを一生懸命こいで一軒一軒の郵便受けに新聞を入れていく。
150件分の配達を受け持っていた。


静まりかえった薄暗い住宅街に、
「ハァハァハァ」とZETの吐息が響き渡る。


と、その時

お〜い!ZET〜!


後ろから聞きなれた声がする。
チャリを止めて振り返って見ると
ヨウがチャリでこっちに向かってくる。


「おつかれ〜!」そうZETに声を掛けると、
ヨウはZETの配達に付き合うと言い出した。


いつも一人で孤独に配達していたZETは、
ヨウの姿を見ただけで何だか嬉しくなってきた。
二人は色んな話をしながら一緒に配達をしていった。


最後の1件に新聞を入れ終わり、
近くにあった自動販売機で二人はHotコーヒーを買い、
手頃な高さのブロック塀に腰掛けてまた話出した。


ヨウは昨日、久々にゆうやガンク等と練習に打ち込んだ話をした。


「いいな〜 俺も皆と一緒に野球したいよな〜」ZETがポツリとつぶやいた。


ヨウはZETに何かして上げたかった。
今自分が出来る事を一生懸命考えた。
そして、あくる日からZETの新聞配達にランニングで付き合う事に決めた。


そのうちZETも自転車をやめヨウと一緒にランニングで新聞を配るようになった。











距離にして5km程だろうか、毎朝の二人の配達ランニングは
確実にヨウとZETの下半身を強靭なものへと鍛え上げていった。














〜パワラン学園野球部1軍グラウンド〜


この学園には野球部のグラウンドが4つあり、
それぞれの軍チームが専用で使用している。
しかしナイター設備がひかれているのは、
ここの1軍グラウンドだけであった。


今日も日が暮れるまで1軍メンバーが練習に汗を流していた。
やがて練習が終わり、道具を片付けていたゴズィラの元にヨウがやって来た。


「久しぶりだな〜!」ヨウに気が付いたゴズィラが先に声をかけた。
ヨウはある事をゴズィラに相談した。
「よし! 話は分かった。俺の方からドリックコーチにお願いしといてあげるよ」
ゴズィラのその言葉にヨウは「やっぱ頼りになるよゴズィは〜、ありがとう!」と礼を言うと
グラウンドから去っていった。
ゴズィラは同級仲間からゴズィと呼ばれ1〜4軍の皆からしたわれ、
もっとも信頼されている1軍キャプテンである。






次の日


4軍グラウンドでは新聞配達を済ませたZETが
遅ればせながら練習に出てきた。
しかし、せっかく出てきても、
練習出来る時間は30分程でしかなかった。
そこでヨウが4軍の練習が終わったZETを
1軍グラウンドに連れて行った。


1軍チームも既に練習を終えていてグラウンドには人影は無かったが、
ナイターの電光は消される事無く煌々と付いたままだった。
「何でナイター設備消してないんだろ?」ZETは不思議に思ったが、
ヨウの説明を聞いてそれが自分の為にゴズィがドリックコーチに
頼んでくれた事だと知った。


ZETは嬉しかった。自分が練習出来るようにと、
そこまでしてくれるコーチとヨウ、ゴズィに
ありがとうの気持ちで心が一杯だった。


目から涙も少しこぼれていた。


そこへゴズィがバットを持ってやって来た。
「ZET! 久しぶりだな〜 腕は鈍っていないか? 俺がノックしてやるよ!」
そう言ってヨウをファーストにおいて、
サードのZETに向けてノックを打ち出した。


「ヘイヘイヘイ!」
「さぁ〜来い!」
「もういっちょう!」


3人の楽しそうな声がひと気の無い1軍グラウンドに明るくこだまする。


後日からその居残りナイター練習に、
ゆうやガンク、しんへい、アフロ達も参加するようになった事は言うまでも無い。